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カナダ・アラスカ沿岸水路  (プリンス・ルパート〜バンクーバー)

 

 

 

日記

宿泊地

(航行距離)

9月4日(日)

洗濯をしたいのだが、ホステルの人がシーツなどを洗っているので洗濯機が使えず、待っている間にリビングに置かれていたギターを弾いて待つ。

荷物の整理をして、買い出しから帰ってきても洗濯機はまだ回り続けており、本当によく働くスタッフの方々である。

 

庭には2艇のカヤックと自転車が3台置かれ、カヤッカーにサイクリストにバックパッカーに家族旅行をしている人と、全員が各々の荷物を乾かしている。やっと朝まで続いた雨も上がったしね。

昨日会った2人のカヤッカーもいて、今日は昼間から酔っていないようなので話をしてみると、2人はそれぞれ単独で旅をしているらしく、てっきり2人組かと思っていた。

 

ニュージーランドから来たクリスは、どうも以前から私の事を知っていたようで、バンクーバーのエコマリンで大量の海図を買ってアラスカへ向かった日本人カヤッカーの話を聞かされたという。

「グレイシャー・ベイまで行ったの? 君は速すぎるよ」

 

同じく6月にバンクーバーを出発したスコットランド人のダニーは、一度アラスカのケチカンまで漕いで行ったそうだが、ビザを持っていなかったので追い返されて、今この町にいるとの事。

 

“これからどこまで漕ぐの?”話には、全員が「お腹いっぱい」との答えを出す。2人のカヤックがリジット(分解できない舟)だったので、どうやって母国に持って帰るのかを聞いてみると、こっちで売り払うのだという。

「要るのならあげるよ」

「いらない」

 3人とも、6月にバンクーバーを出発 

 

「もっと大きな音で弾いたら?」

従業員の女の子が通りすがりながら言い、また洗濯機でシーツを洗い始める。

 

夕食を食べ終わると、やっとランドリーが空いたようで、

「洗っておいてあげるから、服を出してくれる?」

と、突然言われたので、あわてて着ている服を着替え、雨ガッパ姿になった私を見て笑顔の彼女。

「持っている服を全て洗うのね、カヤッカーは」

Prince

Rupert

9月5日(月)

少しだけ重量超過の荷物も、その荷物からはみ出しているパドルも、「頑丈だよ」の一言で片付き、カヤックを無事に預ける。荷物の中に入っていたベア・スプレーは予想通りに没収され、お土産がひとつ減ってしまう。でも丁度良かった。どう処分したらよいのか困っていた所だったし。

 

小さな飛行機は小気味よく飛び立ち、雲の上を進んで行く。窓の外を眺めていると、どこの上空を飛んでいるのかをすぐに分かってしまう程、何度も海図で見返していた地形が頭の中に叩き込まれていた。

 

 ジョージア海峡が見える 

 

プリンス・ルパートからわずか100分の飛行でバンクーバーに着。別の航空機に乗り換え、更に南へ飛ぶこと1時間、アメリカ・ワシントン州のシアトルに到着する。

 

ユースホステルに荷物を置き、祝日により閑散としている街を地図も無く、かすかな記憶を頼りに歩き回る。シアトルに来たら、行ってみたい所があったので探しているのだが、なかなか見つからない。これまで小さな町ばかりを訪れていたので大都市は疲れるな。

 

探していた日系のスーパー“UWAJIMAYA”は意外にもホステルのすぐ側にあり、割高料金で陳列されてある日本の商品を見ていると、懐かしさがこみ上げてくる。

10年前、ここで買ったジュースを飲んでいたら、

「お前、もうすぐ日本に帰るんだから、そんな高いの買わなくていいだろう」

と、ホステルで他の旅行者に言われたよな。

「でも、俺の地元で売ってないんだよ。〇っちゃんのぶどう味」

Seattle

9月6日(火)

朝食が無料の取り放題なので食べまくりたい所だが、もう日中に運動ざんまいの生活では無くなったので控えめに食す。相席になったのが日本人で、日本を発って以来、約3ヶ月ぶりに日本語で会話をする。

彼は“バイクポロ”という競技の世界大会に出場する為、大阪からやって来たそうだが、初めて聞く競技だな。ポロの“馬”を“自転車”に変えて。何となく想像はできるけれども。

 

他の日本人出場者たちは東京からの便で午後に到着するそうで、それまで荷物をどうしようかと困っていた彼の荷物を預かり、いっしょにシアトルの街へ出かける。

初めての海外だそうで、買ったばかりのデジタル一眼レフで写真を撮りまくっていて、こっちも負けじと今回の旅から使い始めたデジタルのカメラのシャッターを押してゆく。必然的にゆっくり歩きとなり、その風景の変わり具合が心地良く、これまで1人での行動ばかりだったので、いつもとは違う視点から物事を見られるのが新鮮である。

 

昼からは1人で街を練り歩き、今夏経験したことのない暖かな陽気も加わって、疲れた。やはり大都市はしんどいな。

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9月7日(水)

昨日と同じテーブルで朝食を取っていると、相席になったのは東京から来た大学生3人組。昨年留学した時にできた友達に、これからバスで会いに行くという。有名大学ではないですよ、と謙遜して言う3人に、

「箱根駅伝によく出てますよね」

と言うと、笑顔になった彼・彼女たち。

「でも、今年は出られなかったんですよね」

 

自転車を借りてシアトルの街を走り出す。自転車店にオススメのルートを聞いておいたので、それに沿って移動して行く。まだ午前だというのに日が高く、まぶしい。

途中、運河で見かけたのは魚に喰らいついているアシカの集団で、わざわざアラスカに行かなくても自然に見れるんだな。

 

 

「カギをもらったかい?」

公園で休んでいると、自転車店でいっしょにサイクリング・ロードの説明を受けたおじさんに言われ、自転車に付いている鞄の中に入っていたカギを見せると、

「私のバッグには入っていなかったんだ。ここまで漕いで来てしまったし、手遅れだね」

と、少しため息混じりに話し、自転車から離れることの許されないサイクリングを再開させていった。

 

こっちの自転車には鍵があって良かったなと思い、その鍵を見てみると、これは4ケタの暗証番号を合わせて開錠するタイプのもので、番号知りませんがな。

自転車店に電話をして番号を聞こうと、公衆電話を探すもなかなか見つからず、電話ボックスがあっても肝心の電話機本体がない。

「う〜ん、電話はみんな携帯しているからなぁー」

 

こうして、電話機を探すサイクリングが始まった

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9月8日(木)

「シアトルは小さいですね」

大学の夏休みに一人旅をしている若者に言われ、少し戸惑ってしまった。ニューヨークを訪れた後なので余計にそう感じるのだと言うけれど、アラスカから来た身には目がくらみそうな街のビル群である。ただ、また来て良かったと思える街であるのに変わりはなく、そんな所で一年間の留学生活を始めるという学生さんが何ともうらやましい。 

 

 ニルヴァーナ展を見に行った 

 

夕方になり、野球場へと向かう。シアトルへわざわざ立ち寄ったのは、久々にアメリカの野球を見ようと思ったからである。せっかくなので、一番高い席のチケットがほしいと売り場の女性に言うと、

「イチローはこっち側ね」

と、勝手に一塁側に決められて座席は何と、マリナーズベンチのすぐ横、一番前の席であった。

 

この旅で初めて飲んだアルコール飲料は、アメリカの球場で

初めて飲んだ(年齢により飲むことができた)ビールでもあった

 

一つだけ空いていた席に座ると、まさに手が届く距離にあるグラウンド! よりも驚いてしまったのは、足が地面に届かない座席。隣に日本人らしき若者がいたので聞いてみると、やはり届かないそうだ。でも、その横にいる女の子は見事に足が着いており、見てみると厚底の靴を履いており、なるほど、あれは便利だ。

 

イチローの先頭打者・初球ホームランで始まった試合。イニングが終わる度に目の前をイチローが駆け抜けて行き、その都度、隣の方から声が飛ぶ。何と言っているのか聞いてみると、イチローがCMでやっているヨーグルトに関しての事だという。う〜ん、ユン〇ルなら分かるけれど。

 

本日、3打数2安打2得点1四球2盗塁であったイチロー。流石です。

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9月9日(金)

バイクポロの世界大会を観戦するため、バスに乗り会場へと向かう。自転車で行くのには遠いそうなので、2人の選手が同行し、バスの前に自転車を乗っけている。急かされるのが怖くて、まだこれをやった事がないんだよなぁー。

 

 

“ポロ”の印象から、もっと球を打ち合うのかなと思っていたけれど、スティックで細かく球を運んでいるのを見ると、アイスホッケーに近い感じがする。

日本からは計3チームが出場し、いずれのチームも苦戦していた。アメリカ・ヨーロッパ勢がやはり強く、競技歴の長さから来る戦術と技術、体格の大きさを活かしたリーチの長さ、そしてパワーとスピードで圧倒していた。

 

ルールはシンプルで、初めてでも見やすかった

 

好成績を残せなかった日本の選手たちだが、口々に他の出場国から感謝されたという。日本がアジア勢として初めて、選手団を組んで出場した大会であったそうで、オセアニア(オーストラリア)からの初出場も加わって、やっと世界大会らしくなったというのだ。

「あとは、アフリカだけだね」

 

夜、昨日に続いてマリナーズ対ロイヤルズ戦を見に出かけ、昨日と同じく空席の目立つ観客席に着く。10年前、満員の大観衆の中で試合を見ていた記憶からすれば、現在のこの球場の光景は寂しいものであった。

それでも、この雰囲気が好きだ。シーズンも終わりに近づく肌寒い9月の夜に、ゆったりとスタジアムに流れる空気。地元のチームを意地でも最後まで見届けようとするファン、野球がとにかく好きな人、暇つぶしに来た若者たち、暇そうな売り子の方々。

 

隣に座っている父娘が拍手を送る。グラウンドにはダイヤモンドを小走りに駆けてゆくイチロー。今宵も放った、地元のスター選手のホームランに沸き立つ観衆。

アメリカン・リーグ西地区の最下位に沈むマリナーズ。今日も勝って、これで連勝である。

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9月10日(土)

スターバックスの1号店が市内にあると聞き、折角だからと行ってみると、ものすごい行列で並ぶのはあきらめ、墓地に行くことにする。10年前、シアトルに来た理由を“ブルース・リーのお墓参りの為”と答えた日本人旅行者の言葉を何故か思い出してしまったのだ。

 

正午頃にホステルに戻ると、その周辺には淡い緑色のユニホームを着た人々が続々と歩いており、自分もその流れに乗る。これから地元のプロ・サッカーチームであるシアトル・サンダースの試合が行われるのだ。

 

準備されていた席がほぼ埋まり、地元一色に包まれた応援の熱気の中、選手の名前も、チームの実力も成績も全く分からないままのサッカー観戦がスタート。

試合は前半から荒れた展開で、サンダースが退場者を出し、審判に浴びせられるものすごいブーイング。相手のFCソルトレイクも退場者を出して、前半は1対1(得点も)で終了。

 

 今、シアトルでは野球よりサッカーが熱い、は本当であった 

 

後半も地元びいきの応援により、相手選手と審判に対してブーイングの雨あられで、どうやらその状況に審判もキレてしまったようで、相手チーム寄りの判定をするようになってしまった。

ソルトレイクの方が個人技で勝っている選手が多く、せっかくもらったPKのチャンスも外してしまったサンダースに、2点目を入れられた後に追いつく力は無かった。

 

夕方からはホステルで出会った2人の日本人学生さんと野球を見に行く。

ライト側外野席で大量のガーリック・ポテトをほお張りつつ観戦。速いペースで試合は進み、マリナーズは三振の山。外野席にいる人達はライトのポジションを守っている選手との時間を楽しんでいて、意外と声援に応えているイチローの姿が印象に残った。

 

2時間で終わった試合。これで本日はサッカー・野球とシアトルは連敗である。

 


 

 おまけ

 

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