カナダ・アラスカ沿岸水路 (プリンス・ルパート〜ジュノー) |
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日記 |
宿泊地 (航行距離) |
7月20日(水) |
昼から雨が降り出し、合羽姿で街へ出かける。昨日買えなかったアラスカ州の海図計4枚を購入し、次は昨日同様、港周辺で情報集め。カヤックで国境を越えるのに、どこで出入国の手続きをしたらよいかを聞くためである。 いろんな人に聞いても、カヤックの場合はよく分からないと皆が言い、 「ここに電話すればいい」 と電話を使わせてもらい、繋がった先はカナダ税関。 話を聞くと、カナダ出国に関しては出国スタンプも要らず、そのまま何もせずアラスカに行けば良いとの事。アメリカ入国については、アメリカ税関の方へと電話で取り次いでもらったのだが、うまくいかなかったのか途中で電話が切れた。 近くに税関の事務所があるというので行くことにする。先程、電話で少々気になることを聞いたし・・。 「あなたね、日本人カヤッカーっていうのは」 事務所に入るなり女性職員に言われ、続けざまに、 「電話でも言ったけれど、あなたはビザを持っていないからアメリカに入国できないわよ」 日本人だから観光旅行でビザは要らない、と言い返し続けていたら、 「確かめてみる?」 とアメリカ税関に電話をかけ始める。 電話に出た男の人曰く、“飛行機”や“フェリー”の場合だとビザは要らないが、カヤックで国境を越えるにはビザが必要だそうで、ところで、ビザってどこで取れるの? 「バンクーバーだよ」 これでアメリカ入国はカヤックからフェリーへの変更が決まり、フェリーの情報を入手する為に観光案内所へ向かう。それにしてもきちんと事前に聞いておいて良かった。何も知らないままアラスカに行っていれば、国外退去処分になるところであった。
荒れる海を漕ぎ、カヤックを撤収 |
Prince Rupert |
7月21日(木) |
昨日天候の悪い中であわててカヤックを片付けたので、砂などがカヤック内に入ってしまい、朝からカヤックを丹念に洗っていると、 「それ、カヤックかしら?」 と、隣にテントを張った人が声をかけてくれ、 「カナダ製ですよ」 楓のマークを見せながら誇らしげに言うと、女性はカナダの人ではなくてフランスからの旅行者であった。日本から来たと知ると、 「3年前に行ったわ。東京、京都、そして・・小さな島・・・、名前は何だったかしら?」 と、旦那さんに尋ねる奥さん。とりあえず頭に浮かんだ島を言っていくと、答えは“佐渡島”であった。鉱山などを見に行ったそうで、これまたレアな所を・・。 こうしてキャンプ場で、旅行者や仕事をリタイアされてキャンピング・カーで旅をしている人達と交流をしていると、10年前にカナダを自転車で旅行した時のことを思い出してしまう。
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7月22日(金) |
本日は晴天なり。本当に久しぶりの太陽である。テントの中は暑いので、日陰に避難して本を読む。
テント・カヤック→物干し台、パドル→物干し竿 昨日に引き続き、インターネット・カフェにて情報集めをする。次々と発見してしまう新たな旅のルートに、選択肢は増えるばかりだ。 プリンス・ルパート |
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7月23日(土) |
早朝3時に起きて、4時にはフェリー乗り場に到着する。国境を越えるフェリーなので出港の3時間前には行かないといけない、と言われたからである。 チケットを買い、カヤックの持ち込み料金22ドルを払おうとしたら、袋詰めされたカヤックは“普通の荷物”なので払う必要は無いという。今考えてみれば、飛行機に載せる時も普通の荷物として扱われていたし、航空会社に対して事前に許可を取る必要は無かったのだろう。 結局7時過ぎまですることはなく、フェリーの出港直前にターミナル内でアメリカ入国審査を受ける。荷物が多かったので列の最後に並び、フェリーの出港時間が迫っていたのか、背負ったカヤックが重そうに見えたのか、あっさり審査が終わり、アメリカ入国。2年前、乗り継ぎのためにアメリカに寄った時、全ての指紋や顔写真を撮られて、入国するのにものすごく時間がかかった覚えがあるけれど、今回は船だし、アラスカだし、ということなのだろうか?
ここ数日、荒れるばかりの海だったので フェリーを使ったのは正解であった わずかな客を乗せたフェリーは6時間の航海を終え、ケチカン着。 タクシーに乗り込み、宿を決めていなかったので運転手さんに相談すると、丘の上にあるホステルに連れて行かれる。ホステルには客が1人しかおらず、管理人はその内戻ってくるからということで荷物を置かせてもらい、街の中心部へ買い物に出かけ、ホステルに戻ると管理人のダルさんがいた代わりに、客は誰も居なくなっていた。
ケチカンはとても狭い海峡にある町だ |
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7月24日(日) |
朝食のためにリビングに行くと、男の人が1人寝ていて、おそらく夜中にフェリーが着いたのだろう。 部屋に戻り、荷物の整理をしていると、ずぶ濡れ姿でやって来たのはジェイミーさん。71歳にはとても見えず、若々しい人だ。アイオワ出身だというので、行ったことがあると言うと、「あんな田舎に・・」と感心するジェイミーさん。 「私も日本には行ったことがあるよ。飛行機の乗り継ぎで成田に3時間だけだったけどね」 今後、アリューシャン列島に向けて北上の旅を続けるそうだ。 ケチカンのダウンタウンに出かけると、昨日同様クルーズ船が停泊して、その乗客たちで街は賑わっている。通りにある店は土産物屋と宝石店がやたらと目に付き、大型客船でやって来る人達を中心にして街が回っていた。 ケチカン散策から帰ると、ホステルは旅行者で少々賑やかになっていた。 リビングで寝ていた男性・ルカスは女性といっしょに居たのでカップルかな?
と思っていたら、兄妹で旅をしていて、アラスカから南下してきたとの事。ミネソタ出身だというので、飛行機の乗り継ぎで数時間いたよ、と言ったけれど、案の定、微妙な雰囲気に。 「ジョー・マウアー。いい選手だね」 地元出身で、ツインズ(ミネソタを本拠地とするプロ野球チーム)のスーパースターの名前を出した途端に、彼の表情は明るくなった。ミネソタ出身の人は、この名前を聞くとみんな笑顔になるのである。 「チームの調子?まぁまぁかな。そういえば日本人がプレーしているよね?・・ニシオカだったかな?」
クルーズ船(豪華客船)がこの日は4隻も停泊していた |
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7月25日(月) |
ホステルのみんなから「気をつけてね」の言葉を頂き、タクシーで“サウス・イースト・シーカヤックス”に向かう。昨日、このカヤック・ショップに良い出発地点が近くにあるのかを相談しに行ったら、店の裏手にある港を使わせてもらえることになったのである。 アニメ声が何ともカワイイ店員さんに許可をもらい、カヤックを組み立てていく。折りたたみ式のカヤックが珍しいのか、様々な人が声をかけてくれる。 「どこまで行くんだい?」 「ジュノーさ」
差し入れに缶詰を頂いた、隣接するサケの缶詰工場 で働くスティーブさん(左)と上司のボブさん
出航。陸地にいる人達に向かい、海の上から手を振り合う。こういう別れ方は絵になるな。
航空機も飛んで来るトンガス瀬戸 トンガス瀬戸を抜けビーン水路に入ると、斜め後ろから白波が押し寄せ、今日は海に出る日では無かったと思うも、もう10km先の対岸まで渡りきるしかない。 |
Caamano Pt (29km) |
7月26日(火) |
朝目覚めてテントから外に出ると、浜辺に2艇のカヤックが置かれていて、近くに男女2人の姿が見える。彼女は私が日本人だと分かると、 「こんにちは、私の名前は・・・です」 と、突然日本語で自己紹介をして、そのあまりに完璧な発音に驚いたせいで、肝心な名前の所を聞き逃してしまう。大学生のローレンは日本から来る交換留学生に日本語を教わったという。アダムと共に、この浜の奥にあるキャビン(小屋)に朝食を取りに来たそうだ。 アダムは1ヶ月程前にこの辺りをカヤックで旅をしたそうなので、これからのルートやキャンプできる場所などを教えてもらい、ついでに“熊対策講座”を開いてもらう。食糧袋を木に吊るす方法(地上から5m、幹から3mの所に吊るす様に言われる)やロープの縛り方など。とにかく、ブラックベアが多くいるそうだ。 本来なら、毎日熊対策をしながらキャンプをして来なければならなかったのだが、カヤックを長時間漕いで疲れた後に、雨の降る中でテントから100m離れた場所で食事をし、匂いのする物全て(歯磨き粉も)を寝る所から100m離してと、面倒臭くてできなかったのである。
凪いでいた海も、午後から白波を伴って荒れ始める。クラレンス海峡は南側が外洋に開けているので、南風が吹くと手が付けられなくなる。こっちは北上しているので追い波だが、ケチカンに向けて南下していった2人は大丈夫だろうか? クラレンス海峡は最後まで白波が立ち続け、アーネスト海峡に入ると、海上は少し穏やかになった。 |
Vixen Hbr (43km) |
7月27日(水) |
「スモール・クラフト・ワーニング(小型船舶要注意)」 ラジオはクラレンス海峡の荒れ具合を伝えている。南側が陸地に守られているアーネスト海峡は少し白波が立つ程度。南東からの風なので、北には勝手に進むが、沖に流されないように東へと向かって漕いで行く。
岸辺に荷を運び、カヤックに入れてゆく その沖では4頭ほどのオルカが飛び上がったり、尾ひれを海面に叩きつけたりと激しい水音を響かせながら暴れていて、狩りでもやっているのだろうか? アラスカに入ってから、海図が縮尺20万以上のものとなり、海岸の地形がその場に行ってみないと分からず、キャンプ地探しにかなりの時間がかかってしまう。防水の服を着ていても、どこからか雨水は服の内部へと侵入して来て、防寒の為に着込んだフリースがベトベトになってしまい、これで寝巻きが一枚減った。
潮が引いており、通ることが出来ず |
の左の島 (30km) |
7月28日(木) |
濡れ濡れの服を着て出発。向かい風と海図の縮尺も相まって、地図上ではあまり進んでいない感覚になり、波が無い事だけが救いである。 この先、ジモビア海峡とブレイク海峡の2ルートに別れ、ブレイク海峡を北上することにして、ブレイク島に上陸する。アダムからこの島にトレイル(山道)があると聞かされていて、それが気になったのである。 言われていた通りに“泥っぽい”所で、さっそくトレイルの散策に出かける。道は意外としっかりしていて、けっこう通る人(あるいは動物)が多いのだろうか? この旅で森の中に分け入るなんて無かったことだし、カヤッキングばかりだったので、ハイキングは新鮮である。途中から道が分からなくなり浜辺に引き返すと、海は潮の流れが南へと変わっていて、今日はこの島でキャンプすることが決定。
テントを張り、荷物の整理をすると、再びトレイルに挑戦し、戻ってきた時にサングラスが無くなっているのに気付き、三たび森の中へと入って行く。 結局、サングラスは見つからず、次に行く町での買物が1つ増えた。 |
(23km) |
7月29日(金) |
ブレイク海峡 大雨 キャンプ地 |
Wrangell 近く (38km) |
7月30日(土) |
潮がかなり上がった様で、昨日無かったはずの海藻がテントの前に打ち上がっている。 10時に店が開くと見越して、8時ごろにランゲルの町を目指して出発。
ランゲルに近づくと、まずは飛行機のお出迎え フェリー乗り場近くの浜にカヤックと荷物を上げて、そそくさとランゲルの町を歩き始める。これから満潮に向かうので、潮が荷物の所まで上がる前に帰って来なければならない。 スーパーで食糧を買っていると、 「今朝、海で君を見たのだけど・・カヤックだろ?」 突然男の人に声をかけられ、どうも黄色い上着がすごく目立っていた様だ。地元の人ではなく、メキシコからの旅行者の方で、レジの手前でお互いの旅話しに花が咲く。 「とにかく気を付けてな。海は、とにかく気を付けてな」 海の町なので釣具屋もあり、サングラスも簡単に見つかって、パンツ2枚と共にレジに持っていくと、 「今、ベア・キャンペーンやってんだ」 と言う店員さん。ゴルフボール程の熊の形をしたプラスチック容器が色とりどり置かれてあり、1つを引いてパカッと開けると、“10%オフ”と書かれた紙が出てきた。やっぱり町は楽しいな。
ランゲルは人口2千の小さな港町 次の町、ピーターズバーグへは2つのルートがあり、フェリーの航路となっているランゲル瀬戸ではなく、ドライ海峡を北上する。“ドライ”の通り、干潮時には海水が無くなってしまい船が航行できなくなるのである。その浅さから、満潮時でも大型船は通れない海峡なので、カヤックにはうってつけのルートなのだ。
ドライ海峡
今は潮位が上がっていて、通るのに問題は無さそうである |
Three Lakes Loop Trails (37.5km) |
7月31日(日) |
北西が進路であるが、まず北上する。昨日から対岸に見られる“白いもの”が気になっていたのだ。漁師の仕掛けにしては変だし、近くにはラ・コンテ氷河があるしで、もしかしてと思いつつ漕いで行く。対岸まで10kmはあり、そこまで行くのは面倒だなと考えていると、海の上にポツンと大きな青白い氷塊が浮かんでいて、近くに寄ってみると、それは浮かんでいるのではなく砂の上に打ち上がっていた。
海の上を歩きながら氷塊を触ったり、写真を撮ったりしていると、海水面がものすごいスピードで膝の辺りまで上がり始め、これは冷たい!
素早くカヤックに乗り込み、本来の航路に戻る。
20kmの海峡横断も追い潮に乗りスイスイと行き、漁船や家々が現れ始める。 ピーターズバーグの町はランゲル瀬戸を2kmほど入った所にあり、港を目指して漕ぎ入ったものの、逆潮の流れが強くて全く前進せず、海からはあきらめて陸を歩いて町を目指す。 ダウンタウンまで歩いて20分。メインストリートは漁港のすぐそばにあり、漁の匂いが漂う小さな田舎町である。人口は3千人。
ピーターズバーグは100年以上前に ノルウェー人によって築かれた町である 人気の無い所でキャンプをしようと、町から離れた浜辺に上陸する。浜にカヤックが乗り上げたと同時に森の奥へと消えていく動物が2つ。小さかったから熊じゃないよな?
と最初は思っていたけれど、他の動物にしては大きかったような・・分からん・・・。 とりあえず、ご飯を食べながら、日記を書きながら、ひんぱんにベアベルを鳴らす。
遠くにラ・コンテ氷河が見える |
10km北 (41.5km) |
8月1日(月) |
凪ぎのフレデリック海峡。少し沖を漕いでいると、カヤックの近くで浮上を繰り返しているのはオルカの親子である。パドルが定期的に水面に入る音も嫌ではないみたいで、追い潮に乗って10km以上もいっしょに西へと進んで行く。
向こうの方が速いので、どんどん距離が広がってしまい、もうお別れかな、と思いながら漕いでいると、突然2頭が5m位の至近距離で姿を見せ、また同じ方角へと泳ぎ出す。彼らに“早く来いよ”と言われているみたいだ。 鳥が氷の上で休んでいた 漁船が操業している横で潮を吹くクジラ。頭をウンと高く出して、こちらの様子を伺いつつ体をクネらせながら海に潜って行くのは、アシカだろうか? |
Fanshaw 5km東 (48.5km) |
8月2日(火) |
濃い霧が出ている中、ケープ・ファンショーを回る。凪いでいるのは良いが、視界は20m位しかなく、岸づたいに漕いでいるとかなりの遠回りである。
霧中のファンショー岬 スティーブンス水路に入ると霧が晴れ始め、沖合で4〜5頭のクジラの姿が見える。クジラがジャンプした後、海面にしぶきが上がり、その後“バシャァ”と大きな音が周囲にこだまし、その音は山々に跳ね返り再び空間に振動をもたらす。「フォァーーッ」とかん高い音も響き渡り、これがクジラの声なのか・・。
「ンゴォ、ンゴォ」と大きな声を出すのはアシカ?
前方でも後方でもクジラの潮を吹く音が聞こえ、近くでも1頭が浮上して、明らかにカヤックの存在を意識している。一度、二度とこちらに向かいながら浮上を繰り返し、このままの間隔だと、次に浮上するにはカヤックの所? 下を見ると、カヤックの真下にクジラの通過してゆく姿が見え、1m横で海面に上がってきた。
前方では4頭のクジラが海面にプカプカと浮かんでいて、100mほど手前でパドルを休めて眺めていると、カヤックに気付いたのか、1頭ずつ大きく浮上した後に尾ひれを出して海に潜って行く。 再びパドルを動かし始める。すると、突然5mの近さでクジラが浮上して、左前方にも4頭のクジラが現れ、どうもさっきクジラが浮かんで休んでいた場所に来てしまったみたいだ。 2頭がカヤックの周りで浮上を繰り返し、左の方では4頭ほどが頭を出して浮かび続けており、その内の1頭が宙に舞った。
クジラを間近で見られるのは嬉しいが、近すぎる距離でクジラに囲まれている状況に危険を感じ、全力でパドルを漕いでその場を離れる。クジラに気を取られていたせいか、けっこう沖にいる事に気付き、とりあえず陸地を目指す。
アラスカに来て10日以上経ち初めて雨の降らなかった一日 |
(33.5km) |
8月3日(水) |
昨日の夕方、島々が点在していたはずの海が、潮が引いたせいで陸続きになっていて、あまりの風景の変わりように驚いてしまう。
50m横で今日もクジラが現れ、尾ひれを見せながら潜り、次はどこから出てくるのだろうと楽しみを与えてくれる。 「ブォーッ、ブォーッ」という重低音が鳴り響き、周りを見ても漁船は遠くにあり、これもクジラの声のようだ。
キャンプできそうな浜を発見 上陸 Sumdum Glacier |
Pt Astley (35km) |
8月4日(木) |
親子らしきクジラが岸沿いを通り、すれ違って行く。前方ではバシャバシャとせわしなくしているのが1頭。この光景が普通になって来たな。 横で浮上と潜水を繰り返している2頭のクジラと20〜30mの間隔を保ちながら、いっしょに追い潮に乗って北上する。 前には4頭ほどの集団が見え、カヤックに気付いたのか、進行方向を変えて海へと潜ってゆく。
氷河から流れてきた氷塊
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Limestone Inlet (40km) |
8月5日(金) |
本当にジュノーが近づいているのか、と思わせるほど見かける船の数は少ない。前方に3つの水路があり、左はそのまま北へと続くスティーブンス水路、右は奥に氷河のあるタク入り江、そして真ん中に見える細い水路には一隻のフェリーが吸い込まれて行く。その先にアラスカの州都、ジュノーがある。
ジュノーの町が見えてきた ダウンタウンの南側にキャンプ場があるのでカヤックを置いて見に行くと、とても快適そうな所では無かったので、再びカヤックに乗り、ジュノーの町を横目に北上する。
ジュノーの街並み ガスティーニュ水路はジュノーの町を境にして、北側は水深が浅くて大型船が通航できない。海上には番号の書かれてある緑と赤の標識が浮かんでいて、これを順番に通って行けば、下をこすらずに小型船は通航できるようになっている。
航行距離(ケチカン〜ジュノー):436.5km |
(54km) |
8月6日(土) |
オーク湾にキャンプ場があるので行ってみると、電気もシャワーも無く、これで一泊10ドル取られるのだったらその辺にキャンプをした方が良いと考え、フェリー乗り場の近くにあった浜辺に上陸。舗装道路の所まで繋がっていそうな道もあり、テントを張る。 舗装道路までの道は泥でぬかるみ、しかも長い。入り口には“インディアン・ポイント・トレイル”と書かれた看板があった。 アスファルト道に出てから30分ほど歩くとオーク・ベイの町に着き、港は観光フェリーのお客で賑わっていた。ただ、店は数軒しかなく、唯一あった商店も品目に限りがあり、やはり明日はお出かけである。 |
Indian Point (9km) |
8月7日(日) |
『フランクリン坂を上ってゆき、二番通りを左に曲がると、』 あれっ? 通りに立ち並ぶ店に目をやっても目的の建物はそこには無く、思わず肩を落としてしまった。仕方ない・・あの本が書かれたのはもう15年以上前なのだから。 ジュノーの街を歩いていると、港にはクルーズ船が泊まり、その乗客を相手にした土産物屋と宝石店が軒を連ね、それはケチカンと変わらない街並みであった。
「アラスカに来てカリブ海の宝石を買うのって・・」 (某有名ガイドブックより) 再びフランクリン坂を上がって行くと、3番通りとの角に建てられている青い壁をした店に目が留まった。その店の看板には“オブザーバトリイ”と書かれてある。 まさか、本当にあったとは・・。 高鳴る気持ちを抑えながら店に入ると、いきなり犬が寝そべっていて、思わず驚いてしまう。女の人がカウンターから出てきて、 「大丈夫、その犬はおとなしいから・・・何かお探しかしら?」 と言われ、いつものクセで「特に・・お構いなく・・」と返してしまい、せっかくの会話の機会を失ってしまう。 狭い店内にギッシリと置かれている古本を見て回る。この古本屋に来たのは、今まで見てきた動物のことを調べる目的もあり、クジラの種類はザトウクジラか・・、あいつらはスティーラー・シー・ライオン(アシカ)っていうのか・・、と一つ一つ確認してゆく。 『どこか講談を聞いているようなその話し方で、』 客(といっても知り合い)が来るたびに話し込んでいる女性の滑舌の良い、はっきりとした速い口調が、ゆったりと時間の流れる店内に響いている。 長居したことにお礼を言い、犬の名前を聞くついでに彼女の名前を聞くと、やはりディイさんだった。
海と山に挟まれた坂の街である |
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8月8日(月) |
今日も遠出してジュノーの街に着く。11時過ぎのダウンタウンは半分以上の店が閉まり、街はクルーズ船でやって来る人達の到着を心待ちにしている様で、他の旅行者は失礼なほど無視されている。
ジュノーは道路が外とつながっていないので 船か飛行機でしか来ることが出来ない 今後の為に防寒着を買い足すと、再び古本屋オブザーバトリイへと行き、ディイさんといっしょに動物関連の本を探す。昨日の“立ち読み”だけでは、頭に残る情報量にやはり限界があった。 写真がたくさん載っている本を一冊買うと、いつの間にか、僕は持ってきた一冊の本をカバンから取り出し、何故この街のこの店にやって来たのかを話し始めていた。 「まぁ、ミチオね。彼はいい写真家だったし、とても良い人だったわ」 懐かしそうに語るディイさんがいた。 「くれぐれも気を付けて旅を続けてね」 握手をしたディイさんの手はとても細かった。 店の入口近くには、昨日と同じ様に大きな犬がのったりと横になっていて、その毛並みをなでてやっても相変わらずの無反応である。バイバイ、セイディ。 『古本屋オブザーバトリイのドアは開いていて、いつものように年老いた犬が入口に寝そべっている。』 |
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※8月7日、8日では、『旅をする木』星野道夫著の(U)「海流」の本文を一部引用しました。